便が漏れる不安を抱えていますが、
それでも道は開けました
知美さんとお母様は、ずっと二人三脚で排便管理に取り組まれていました。今回、知美さんがご自身で自立できた経肛門的洗腸療法の工夫点と現在の状況、更にお母様の思いについて、お2人それぞれからお話をお聞きしました。
対談動画:谷村知美さんとお母様×大阪大学小児外科 渡邊美穂先生(インタビュアー)
(39:13)
谷村知美さんとお母様、主治医である大阪大学小児外科 渡邊美穂先生との対談です。
排便管理の自立への道のりと現在の状況、更にお母様の思いについても、お話ししています。
便がいつ出るのかといつも不安があった
大学1回生の時から、三角コーンタイプの経肛門的洗腸療法を始めていました。それまでは、母に浣腸をしてもらっていました。浣腸も洗腸も3日に1回の頻度です。ただ、浣腸はよく便が漏れていて、いつどのタイミングで便が出るかわからなくて不安でした。
浣腸で不安があったため、排便管理方法を変更しました。
座る姿勢を工夫しながら三角コーンタイプの洗腸機器を使用開始
三角コーンタイプの洗腸は、最初は自分では出来ないと思って、母に手伝ってもらう予定でした。初回洗腸は1日だけ入院して行い、看護師さんに教えてもらいながら、最初から自分で出来ました。1番の工夫点としては、便器の座り方でした。元々便器に座れなかったのですが、看護師さんからの提案で逆向きに座ってみました。それから座ることが出来るようになり、三角コーンを前から挿入して洗腸も上手くいきました。
ただ、準備を手伝ってもらう必要があったのと、三角コーンをおしりに固定しておくので、押さえる手や腕が痛くなりました。
現在はバルーンタイプの洗腸機器を使用中
現在はバルーンカテーテルを使用した経肛門的洗腸療法を行っています。洗腸中に水が漏れる時はあるので、その場合にはバルーンを少し追加で膨らませています。そして、今でもカテーテルは手で押さえているのですが、添える感じで手や腕は痛くなりません。
今も3日おきに実施しています。水の量は600-700mlです。ウォーターバッグには水を満杯に入れて、目盛りを見て注入しています。休憩して2回に分けて入れることもあります。食べた量によって300mlぐらいで、もう無理となったりする日もあります。水を入れたあとは、あまり体勢は変えていないです。ただ、動かないと便が出ないときがあるので、出し切るために体勢を変える場合には、手すりに掴まりいつも同じ方向を向いて動きます。そして、終わりそうかなと思った時にお腹をさすったりします。食べ過ぎたときには、洗腸は時間で区切らずに、出そうな間は絶対に座っておきます。
常に便漏れの心配がある中で生活していく
洗腸自体は上手くいっていますが、漏れるかもしれないというのは、一生考えていくと思います。
食べるものも、これを食べたら便が漏れるかもしれないと、めちゃくちゃ気を付けています。普段食べないようなものは食べません。食べていいと思っても、いざ便が漏れるとやっぱり面倒くさいです。本当に体調が悪くてお腹が壊れているのか、前の日にあったお湯が残っているうえに、自分が食べたいものを食べてしまったから漏れてるのか、わからないです。でも、本当に食べたいときには食べてしまいます(笑)。
母親の立場から思うこと「ずっと誰かのサポートが必要かもしれない」
娘はもうじき28になりますが、生まれた時から排便と排尿のコントロールは母親である私がしてきました。
二分脊椎症プラス鎖肛と色々ありましたので、大学に入るまで、私が摘便と浣腸を先生の指導の下で行っていました。
彼女は便器に座れないので、横に寝かせた状態で手袋を付けた私が便をかき出したり、浣腸したりしていました。日々介助をしていて、もし私が病気になったらどうするのだろうと常に思っていました。
娘が自分で管理していく姿
障害を抱える子どもを持つと、こういうことを心配しながら生きて行くんだなと、ずっと悩んでいました。そのときに、排便管理の方法として、経肛門的洗腸療法があると聞きました。
検査をして、お湯を入れて排便する三角コーンを使用する経肛門的洗腸療法が適応だと言われた時には、とても嬉しかったです。WOCナースさんの指導の下、私がやるつもりで病院に行きました。
それが、「知美ちゃん便器にちょっとまたがってみて」「その三角のコーンをおしりに当ててみて」など、子どもに直接指導してくれていました。私は何にもしなくて済んだことに、大変驚きました。
ただ、その後で問題があったのは、トイレの環境です。家のトイレを見直した時に、車イスのままトイレの近くまでいけないとか、ウォシュレットの位置とか、いろいろ考えた時に改造が必要だということで、福祉の助成金なども利用して、トイレを改装しました。車イスのままトイレの便器まで行けるように扉を大きくしました。
新しい洗腸機器と出会い、排便の自立へ
そこから、洗腸を娘自身が自分でする環境が整いました。三角コーンを使用する洗腸は、袋にお湯を入れてぶら下げて点滴のようにして入れる操作だったので、誰かの手伝いが必要でした。これをどうやって、一人で行うのだろうと思っていました。
また、彼女は三角コーンを持つ手が痛くなるとも言っていました。
このままこの子は、一人でどのようにやっていくんだろう?一生誰かのサポートを受けないといけないのかと思っていたときに、バルーンタイプの新しい洗腸機器があると聞きました。この新しい洗腸機器では、公的医療保険が適用されるため、ハードルがぐんと低くなったことで、試させていただくことになりました。
前は袋のお湯をぶら下げていたのが、今は床に置いておけるので、車イスでお湯を入れて運んで下に置くという準備ができます。洗腸の指導時も、一応私はついて行きました。けれども全く手出しをすることもなくできており、今はもう自分1人で洗腸しています。
これで、やっと病気になど私の身に何かあっても大丈夫だなと思いました。
ただ、トイレに乗り移るとか、トイレからその車イスにもう一回戻る時に、やっぱりドキドキします。車イスから落ちたらどうしようとか、心配になります。そういう時には私がいるようにするとか、どうしても用事があって一緒にいられない時は、誰かにすぐ連絡できるようにスマホを近くに置いておくように工夫しています。
排便管理の選択肢が広がり、今後への期待
患者会の代表の立場もあることから相談を受けることが多いのですが、このように対応していることを伝えます。でも、これが全て100%良いわけではなく、患者さんによって合う合わないがあると思います。
ただ、一つの選択肢としてやってみる価値があるということはよく伝えています。合う方法でコントロールすることが大切だと思います。
二分脊椎症の人は、排尿コントロールはカテーテルによって、おしっこを定期的に出し、予防的におむつをすることはあっても、だいたいドライタイムがあって、漏れたとしてもそんなに臭くないし迷惑はかからないです。
困るのは、排便の方です。いつ漏れるかわからない、いつ出るかわからない、出た場合のにおいやその始末で車イスの人が自分でオムツを替えることがどれだけ大変かということを考えた時に、今の経肛門的洗腸療法はひとつ道が広がったなと思っています。
ただ、全てが良いわけではないので、もっといいものが欲しい、値段も安く、手の届きやすいものにして欲しいという思いはあります。排便のコントロールは、先生方の研究によって上手くいくと思います。今までお話したような「いつ漏れるかわからない」という不安を本人も家族もいつも抱えながら生きているということを、先生とメーカーさんも一緒にご理解を頂いて、明るい未来を作って欲しいと思っています。
インタビュアー :大阪大学小児外科 渡邊美穂先生
プロフィール
谷村 知美
27歳/会社員/二分脊椎
二分脊椎により、排便の不安と向き合いながら、自分自身で前向きに排便コントロールに取り組んでいる。やりたいことや食べたいものはあきらめず、調整しながら実現している。